リーファトロジーの哲学 / Philosophy of Lifatology

美しき曲々の和訳、遺書としての。時に考察

The La's - Man I'm Only Human

「There She Goes (1990)」より



Man I'm only human
なぁ、俺はただの人間さ
Humble as can be
この上なくお粗末な
Man I'm only human
なぁ、俺はただの人間さ
I am only me
俺はただの俺なんだ

 


Man I'm only fishing
なぁ、俺はただ釣りをしているだけさ
Fishing in the sea
海に糸を垂らしてるだけさ
Man I'm only missing
なぁ、俺はただ寂しいだけさ
Throw your line to me
君の手綱を、こっちへ渡してくれ
Throw your line through me
いてもいなくても変わらない俺のほうへ

 


Man I'm only one man
なぁ、俺はただの一人の男さ
I am only me
俺は俺でしかないんだ
Man I'm only one man
なぁ、俺はただの月並みな男さ
Push it out through me
いてもいなくても変わらない俺の方に、舟をよこしてくれ

 


Keep a sense of humour
ユーモアも忘れずに
Put the fear in me
俺を震え上がらせてくれ

Yield your shield to me
君の盾を俺に渡して
Throw your spear through me
君の槍で俺を貫いてくれ
Throw your spear through me
君の槍で俺を貫いてくれ
Throw your spear through me
君の槍で俺を貫いてくれ

 


Man I'm only dying
なぁ、俺はただ求めているだけさ
Dying to be free
自由になることを
Dying to be free
自由になることを
Dying to be free
ただ、焦がれているだけなんだ
Dying to be free
自由になることを


 異常なまでの完璧主義者であるLee Mavarsが率いた、いい意味でも悪い意味でもほとんど伝説のLiverpool出身バンド、The La's。彼らは結局1枚のスタジオアルバムしか出さず、しかもそのアルバムも、あまりにもアルバムを完成させないMavarsに痺れを切らしたプロデューサーが無理やり完成させた代物でした。ほとんど同じラインナップの曲を何年もレコーディングし続けていた執着心は異常ともいえるでしょう。けれども、そこでのMavarsのソングライティングの力は本当に卓越していて、Kitchen Tape Demo、Crescent Tape Demo、その他のデモにもその才能の片鱗が伺えます。「余計なものを省いたナチュラルな音楽」という標語はよく見かけますが、単純に使われてる音を減らすとかそんなレベルの話ではなく、メロディーそのものがシンプルでナチュラルなものだったバンドは、本当にThe La'sしかいなかったんじゃないか、と思ったりもします。もし、Lee Mavarsが復帰して、The La's時代から書き溜めてる曲(2005年に復帰した時に演奏してた「Sorry」など)をアルバムで発表してくれたら、死んでもいいんだけれども。

 ところで、この曲は日本版の「The La's」のボーナストラックではありますが、元々は「There She Goes」のB面なので、マイナーな曲ではあります(そもそもThe La'sというバンドが「伝説のバンド」と言われるわりに、出回る情報が異常に少ない割にマイナーなバンドなわけですが)。それにも関わらず、この曲は自分にとって非常に印象深い曲でもあります。音楽は記憶の楔のようなもので時間をあけて再び聞くと、木枯らしの冷たさに1年前の冬を思い出すように、それを聞いていた場所や時に関わる記憶が呼び起こされます。僕にとってこの曲は、大学に入った年に未だ政治的に物騒ではなかった香港へ旅行へ行った際の記憶と結びついています。香港島の西端にあるWoody Townで営まれる何の奇抜さや派手さもない日常、知り合ったドイツ人(彼は今元気だろうか?)と食べたまずい野菜炒め、山頂近くのホステルから町の夜景を眺めながら飲んだハイネケン、ビジネスで香港を訪れていると言っていた中年のアイルランド人…自分が異国の地で本当に自由なことに戸惑いと嬉しさを感じていたのを思い出すと、どうも今に焦燥感を感じてしまいます。あの時たしかに自分は地球のどこかに存在する町に含まれていたのだろうかか、今となってはわからないような気もします。語りたいことはもっとあるのに、それを語る言葉がないのはひどく残念です。


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